「折れたギターが欲しい」とあなたは言った。
わたしは、なぜ折れたギターなのかと聞き返すと、
あなたは少しはにかみながら「かっこいいじゃん」と答えた。
わたしの知るかぎり、楽器をいじる趣味はないはずだし、
ライブを観に行くこともあまりないのに、急にどうしたんだろうと不思議に感じた。
「ギターのギンギンした音はあまり好きじゃないな。ピアノの音色がいい」
と以前言っていたくらいなのに。
「じゃあ、もうすぐ誕生日だからギターをプレゼントするよ。
中古でいいでしょ。それを自分で折ればいいじゃん」とわたしが言ったら、
「それじゃぁ駄目なんだよ」と冷たく返される。
彼が言うには、
ギタリストが演奏中に突如床に叩き付け折れてしまったギター。
ベタなパフォーマンスなんかじゃなくて、血が沸き立ち押さえられない衝動の末に
叩き付けられた、折られるために音を奏でていたもの。
そんなギターがいいらしい。
X JAPANのヨシキがドラムを壊してる映像は見たことあるけど。
「よくわからない・・・」そうわたしが言うと
また少しはにかみながら「なんかロックっぽいじゃん」とあなたは言った。
彼は、最近フリーマーケットで黒い皮のジャケットを買った。
あまり服を買わない彼が迷わず買ったのは、きっと1000円だったからだろう。
あとは、皮のジャケットというものをいつかは着てみたかったのだと思う。
それ以来、その黒い皮のジャケットを好んで着ているようで
「皮の擦れる音がいい感じなんだよね」と言っていた時も少しはにかんでいた。
言葉を借りてみれば、黒い皮のジャケットを着る彼は「ロックっぽく」て
なんとなくだけど格好良く見えたりする。
じゃぁ、どうすればあなたの求める折れたギターは手に入るの?」と聞くと
「知らね」とまた冷たく返すあなた。ふて腐れるわたし。
少し間を置いて
「ロックの神様がいたら、いつか巡り会わせてくれるんじゃないの。
俺はギター弾けないし、別にロックじゃないけど。
俺はロックっぽいでいいや」と笑いながら言った。
「そうだね」とわたしも笑った。
「見上げる少年の瞳に映る彼」